もくじ
はじめに:睡眠時無呼吸症候群の検査について
いびきや無呼吸に興味がなくてもインフルエンサーさんがいびきについて検査を受けているシーンは見たことあるかもしれません。ちなみに下記の動画は「終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)」をかなりイメージしやすい動画です(PSG:英語でPolySomnoGraphy)。
今回の記事では「もくじ」に沿って無呼吸の検査について説明します。検査結果の「どこの値」を医師が確認しているのかお伝えし、検査をやってよかったと思ってもらえるようにしたいと思います。
「いびき・無呼吸」や「日中の眠気」を悩み来院された患者様は、
①放置すると危険な疾患
②頻度もかなり高い
という理由から閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)を診断する検査を受けることが多いです(OSA:英語でObstructive Sleep Apnea)。
検査結果が重症だとシーパップ(CPAP)が必要になります。CPAP装着は突然死の予防につながります(CPAP:英語でContinuous Positive Airway Pressure)。
予防効果は強力ですが大きなデメリットがあります…。
それは、「一生」呼吸器を装着する必要があることです。
面倒そうにしている知り合いを知っていて、来院を悩んでいるそこのあなたへOSAの検査方法についてご紹介します。
病院検査をおすすめする方:症状チェックシート
以前、記事で検査を受けに来たほうがいい方の基準についてお話しました。
ざっくりまとめると、質問用紙で「日中の眠気」が強い人は、無呼吸の可能性が高くなるので検査をしましょうと提案します。
残念ながら質問の結果のみで無呼吸と診断するほどの精度はありません。しかし、事前評価としては有用なため、ガイドラインでも下記のように記載されています。
診断検査を行うかを決定するに際して、OSA診断の確率を高めるために質問紙を使用することを提案する(エビデンスレベル:C 推奨の強さ2)
参考:睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020 CQ11-2
簡易検査:精密検査との違い、注意点
睡眠時無呼吸症候群の疑いがあった場合に、最初に行う睡眠評価検査です。自宅にキット持って検査します。
呼吸センサー・胸郭バンド・パルスオキシメーターを使用して鼻呼吸の有無,努力呼吸,いびき, SpO2(血中酸素飽和度),脈拍数,体位,体動などを計測し評価をおこないます。
ごちゃごちゃ書きましたが、検査結果で着目しているのは、主に以下の3点です。
- 鼻呼吸が止まっていた時間(息が止まっている)
- 指先の酸素飽和度の低下(換気がうまくいっていない)
- 計測時間と実睡眠時間(眠れていない時間も計測している)
❸の睡眠時間は、簡易検査では測れません。というのも簡易検査では「脳波・眼球運動」を測りません。そのため、レム睡眠・ノンレム睡眠といった「睡眠の深さ」や「いつ眠ったのか」が評価できず正確な就寝時間はわかりません。そのため精密検査と異なる数値が出やすいです。つまり簡易検査のほうが軽症になり易いということです。
簡易検査では「RDIという指数が5以上かどうか」ということに着目しています。それより高い場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性が高いので、軽症・中等症・重症のステージングなどを目的に精密検査へ移ります(RDI:呼吸障害指数、英語でRespiratory Disturbance Index)。
※基本的には「簡易検査→精密検査→診断しCPAPを処方」の流れが基本ですが、RDIが40以上の場合が「重症」である可能性が極めて高いので精密検査をスキップして呼吸器を開始する場合があります。
精密検査:重症度の確認、CPAP必要性の確認
精密検査「終夜睡眠ポリグラフ検査」と呼ばれます。調べる項目が簡易検査よりも増えます。脳波電極が多いと頭を包帯でぐるぐる巻いて検査を行うこともあります。電極が外れてしまうと正確に計測できないので入院での検査を行うのが一般的です。
頭へたくさんの線をつなぐおかげで「眼球運動や脳波」を計測できます。精密検査では正確な「睡眠時間」の測定が可能になり、AHIという指数の計測が可能になります。AHIは簡易検査で測定していた指数(RDI)より正確に無呼吸を評価できます。
また精密検査では、睡眠の深度もわかるので「よく眠れているのか」「無呼吸で苦しくて起きてしまっていないか」が評価できます。
頭をぐるぐる巻きにするのは「脳波電極」をたくさんつけるためです。睡眠深度を計測するのに適した脳波に絞って電極数を少なくしたり、「おでこ(額)」に装置を取り付けることで代用可能になってきており、「精密検査」も自宅で行える施設も出てきました。
さいごに:原因によって「無呼吸」の呼び方は変わる
SASの95%は「OSA」と呼ばれる
余談ですが、睡眠時無呼吸症候群のことをSASとかOSAと呼んで皆さんを混乱させているかもしれません。精密検査で検出されたAHIが5以上(1時間当たり10秒以上の呼吸停止が5回以上あった)の状態をSASと定義しています。SASの人の95%は「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」と言って「はな・のど」など空気の通り道のどこかに起点がありそこが閉まることで息が止まります。「閉塞性」のとき、頭では呼吸するつもりなので呼吸が止まっているとき、胸は息を吸おうと動いています。
のこりの5%は?
実は閉塞起点がないのに気が止まっている状態があります。この場合は頭で呼吸するつもりがないので呼吸が止まっているとき、胸は動きません。
頻度が少ないこちらの無呼吸は「中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)」といいます(CSA:英語でcentral sleep apnea)。
「中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)」の原因の多くは、重症の心不全でありチェーンストークス呼吸という特徴的な無呼吸を呈します。実際はこの呼吸を呈するのは心不全の中でもかなり重症の場合です。このCSAに対するCPAP治療での突然死を予防する効果は限局的です。ですが、CSAの原因となる重症心不全の治療としてCPAPは有効なため装着する意義は大きいです。
無呼吸を指摘された患者さんのほとんどが「閉塞性睡眠時無呼吸症候群:OSA」ということになります。
SASは何科で診察されるの?
SASは「呼吸器内科・耳鼻科」で扱われることが多いですが、合併症として出てくる疾患の多くは「循環器内科」や「内分泌・糖尿病内科」で扱います。睡眠時無呼吸症候群をを呼吸が止まっている疾患と決めつけず診察してくれる医療機関に皆さんが受診されますことを切に願っています。